私の実家の古い家には「鬼の部屋」がありました。
その古い家は、
私が小学5年の頃に壊されて建て替えをしました。
2階の暗い細い廊下の途中にあった
その「鬼の部屋」はいつもふすまが閉まっています。
母が「あの部屋には鬼がいるから入ったらダメだよ。」と
いつも言っていました。
ダメだよ・・・この言葉ほど魅力的で
気になる言葉はありませんよね。
しかし、ちいさかった私は
やはり鬼は怖くて
なかなかその部屋をのぞくことは出来ませんでした。
ある日、
その鬼の部屋から灯りがもれていて
少しふすまが開いているではありませんか!
私はおそるおそる
その暗く細い廊下に近づき
開いているふすまの隙間から
中を覗いてみました。
そこは畳の部屋で
窓際に机がひとつ。
その前に父が座って何か書いているようでした。
父が気がつき振り向いて、
にっこり笑って
「いっちゃん、どうしたの?入られ。」と
言うではありませんか。
そこは鬼の部屋。
私は首を振って入らないと
意思表示しました。
すると階段から
足音がして、母が上がってきました。
「あらっ!」
「もう大丈夫やろう?入っておいで。」と
また父の声。
母もにっこりして
私の手を引いて鬼の部屋へ
私を連れて入りました。
そこには父の仕事の本や
書類がいっぱい積まれていて
机の上には
粘土で作った
鬼の顔が3つ置いてありました。
しばらくその部屋にいたように思いますが
私は粘土の鬼が
やはり、ちょっと怖くて
早々に部屋を出てきたように思います。
粘土の鬼が机に置いてある「鬼の部屋」
それからも
やはりちょっとミステリアスで
やっぱり何かがそこにいるような気がして
私はその部屋の前の廊下は
なるべく通らないようにしていました。
小学5年生のときに
その鬼の部屋も
壊されてしまいましたが、
私の心の中には
あのどきどき、
なにかがそこにいるような感覚は
今でも忘れません。